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「思い」からはじまるブランディング
〜吉野桜子さんとキリンビールの挑戦〜

2016.01.17

 

 9月2日に開催されたはみだし塾は、キリンビールから、SPRING VALLEY BREWERYのプロジェクトを推進する吉野桜子さんをお招きしました。キリンビール(株)への入社が2006年と言いますから、まだ入社して10年。はみだし塾に登壇したゲストとしても最年少の若さです。
 しかし、その話しぶりは実に堂々としたもの。それに、なんとも心地いい講演でした。メーカーの人と消費者なんていう垣根は、微塵も感じないフラットさ。時代の流れにしっかり乗っかって、自分のやりたいことができている人の話を聞くのは、気持ちのいいものです。それに吉野さん、学生時代から演劇をやっていたと言うし、大企業の中でこれだけのプロジェクトを動かしてきたのだから、コミュニケーションの達人(少なくとも人と人の心を動かすのが大好き)とお見受けしました。

 それはともかく。話を聞きながら、終始ぼくは「いつかはこういう人が出てくると思っていた!」と、心の中で手を打っていました。
 長年、広告の世界で仕事をしてきて、例えばビールだってメジャーなクライアントは、ほぼ「制覇」。鳴り物入りで新発売されたビール、屋台骨とも言うべき定番商品、ご当地ビール、第3のビール...etc. いろんなCMを作らせていただきました。
 ぼくのようなCMディレクターという立場で、広告担当者以外のクライアントの方にお会いすることはまずないけれど、いつからか「これはメーカーの現場にいる人たちが、本当に作りたかったビールだろうか?」と思うようになりました。特に、商品開発やネーミングの段階から広告のプロが深く関わっているという話を聞いたり、正確にはビールと呼ぶことさえできない第3のビールが市場を席巻し始めると、「ビールが好きでたまらない職人は一体何を思っているのだろう?」とふと思ったりもしました。それに正直なところ、仕事やプライベートで海外に行きいろんなビールを飲む機会が増えると、熾烈な広告の競争に比べれば「日本のビールって、味も色も幅が少ないな」(実は、何とほぼ1種類のみ!)ということもわかってきます。

 老舗大企業に、中から新風を巻き起こすのは、いつの時代もとてもシンプルなモチベーション。「ビールが大好き」そして「ワクワクするビールの未来をつくりたい」。会社の事情に飲み込まれる前に、若い、しかも女性の社員がまっすぐにそう言うから、もともとが「うまいビールをつくりたい」一念だった醸造家(田山智広氏)や商品開発のプロ中のプロ(和田徹氏)の気持ちを動かさないわけがありません。
 そうなると、既存の流通とは一線を画したくなる。広告の力を借りずに消費者に出会いたくなる。お客さまに直に、思いも製品も届けたくなる。そうして生まれたのが、SPRING VALLEY BREWERYなのだと思います。街と工場とお店が一体になった空間。ビールメーカーと消費者の壁を取っ払った関係。おいしいビールをつくりたい人と飲みたい人が出会う。実にシンプルな、いわばビールの原点ともいう場所に「ビールの未来」はあったのです。

 講演の中で興味深いこんなフレーズがありました。<クチ+アタマ+ココロのおいしさの時代へ>。口伝てに情報が行き交い、頭で戦略を立て、心で消費者と向き合ってこそ、おいしさが届く時代。そんな説明だったかどうかはかなり怪しいですが(笑)、吉野さんとキリンビールの挑戦は、実にシンプルな「ビールへの思い」そのものだと思ったのでした。(塾長・今村直樹)

はみだし泰造